横浜家庭裁判所 昭和44年(ロ)1002号 決定 1969年6月30日
少年 G・M
主文
本件勾留状の左側上部に貼布せられ裁判官武内大佳の印章による契印のある附箋に「少年の取調については、午後六時以降は取調べに当たらないこと」とある部分を取消す。
理由
本件準抗告申立の趣旨および理由は別紙記載のとおりである。
一件記録によれば、本件勾留状の左側上部に「少年の取調については午後六時以降は取調べに当たらないこと」との文言の記載のある附箋が貼布せられ、本件勾留状との間に同裁判官の印章による契印がなされていることが明らかである。しからば、右附箋は客観的には本件勾留状と一体をなし、その一部分を形成するものと認められるから、右附箋に記載せられる文言の用語例よりして本件勾留状には右文言のような拘束的制限が加えられているものと解せられる。
思うに裁判官が勾留状を発するに当つては勾留の理由および必要性について判断することを法律上要求されるだけで、その限度を超えて自己の裁量権に基いて上叙のような拘束的制限を誅しうべきなんらの法律上の根拠がなく、従つて本件勾留状中の右附箋の文言は違法と認めざるをえない。
よつて右附箋部分はこれを取消すべきものとし主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 仁分百合人 裁判官 新川吹雄 裁判官 矢部紀子)
別紙
準抗告申立書
罪名 窃盗 被疑者 G・M
右被疑者に対する頭書被疑事件につき、昭和四四年六月二八日横浜家庭裁判所裁判官武内大佳がした勾留状発付の裁判に附加した同勾留状付符箋記載は条件に対し、左記のとおり準抗告を申立てる。
記
第一申立の趣旨
昭和四四年六月二八日横浜家庭裁判所裁判官武内大佳が発した被疑者G・Mに対する窃盗被疑事件勾留状の表面左側上部附近に同裁判官が同勾留状と契印して添付した符箋に記載されている「少年の取調べについては、午後六時以降は、取調べに当たらないこと」なる文言は、違法であるから同符箋掲記文言の取消を求める。
第二申立ての理由
本件は昭和四四年六月二八日横浜家庭裁判所に勾留請求したところ、同裁判所裁判官前記武内大佳が右請求を認容して、勾留状を発付はしたものの、同勾留状の表面左側上部付近に「少年の取調べについては、午後六時以降は取調べに当たらないこと」と記載した符箋を添付し、かつ同符箋と勾留状との間に契印をなし、条件付のような勾留状を発付したが、そもそも勾留請求に対しては、裁判官は刑事訴訟法第六〇条第一項各号該当の有無ならびに勾留状発付の必要性を判断しうるのみであつて右事項に該当し、勾留状発付の必要ありと判断した以上所定の勾留状のみを発付すべきものであり、その勾留状の記載要件は同法第六四条ならびに同規則第七〇条所定の事項に限られそれ以外の条件などはこれを附加することができないものと解すべきであつて、本件前掲記のような事項は被疑者の取調べに当たる捜査官の良識にまつとするのが法の建前であると思料する、従つて、本件前掲記のような条件的事項の記載は違法かつ無効のものではないかと考えられるが一応形式的な附帯裁判と認めざるを得ないので右符箋記載の文言の取消しを求める次第である。
昭和四四年六月二八日
横浜地方検察庁
検察官検事 長尾善三郎
横浜家庭裁判所殿